
creatorinterview建築家・プロダクトデザイナー 板坂諭氏 インタビュー
国境や言語の壁を乗り越えて、社会の良き代弁者としてデザインに取り組み、メッセージを世界へ向けて発信していきたい。
LAST UP DATE 05/09, 2011
建築家・プロダクトデザイナーとして、日本のみならず海外でも高い評価を受ける板坂諭氏。「お客様のオーダーに100%応えるという姿勢では足りないと思っている」と語る氏のプロフェッショナルな姿勢から産み出されるデザインには、日本の素材や伝統、技に対する愛情と、世界的な視野から見た環境問題への提言が込められている。建築家・プロダクトデザイナーになるまでの道程から、今の時代性を持った、次代のデザインを標榜する板坂氏による、これからクリエイティブ業界を目指す方へ示唆に富んだメッセージを掲載。


- 1978年生まれ
2000年名城大学理工学部建築学科卒業
2000年~02年平倉直子建築設計事務所
2002年~城戸崎建築研究室
2010年にデザインユニットh220430(http://www.h220430.jp/)を設立。
h220430
http://blogs.brash.jp/h220430/
ただ機能的なものを造るのではなく、それ以上の価値を持ったものを造りたいという思いの表れが強かった。
まずは、建築家・プロダクトデザイナーとして、現在に至るまでの板坂さんの道程をお聞かせ頂けますか?
小学生時代、黒板の横にポストがあって毎日生徒が投函したものを日刊新聞の表紙にしてくれる先生がいました。表紙に選ばれると嬉しいから、みんな絵とか作文とか、こぞって入れるわけですね。僕も表紙に選ばれると嬉しくて、絵ばかり書いていました。今思うと、それがこの仕事に就くきっかけだったかも知れません。
中学校の頃には既に、将来は建築などの形あるものを「絵を描くように」造るのだと決めていました。「絵を描くように」というのは自分が絵を描く事が好きだったということもありますが、ただ機能的なものを造るのではなく、それ以上の価値を持ったものを造りたいという思いの表れが強かったと思います。
そして、大学時代はモダニズム建築や都市に興味を抱きながらもF.L.ライトの妥協の無い緻密なデザインや、住宅や超高層ビルなどの建築だけではなく、家具や照明や食器まで領域に捕われずデザインをしていることに惹かれました。
そして、大学卒業後は設計事務所に所属し、そこで建築の作り方を徹底的に学ばせて頂きました。
昔から、僕自身は建築に限らずあらゆるデザインに興味を持っています。中村勇吾さんのメディアアートもOlafur Eliassonのコンテンポラリーアートも川合玉堂の日本画も、同等に強烈な魅力を感じ、アンティークにも民芸にもiPhoneにも同様に強く惹かれています。あらゆるものに興味を示し、あらゆるものを吸収したいと触手を伸ばし続けています。今日までの蓄積が形になったのが昨年参加したDESIGNTIDEの南青山Theory本店での展示でした。
時代の流れを汲み取りながら、耐久性のあるデザインの創造に挑戦。
平成22年4月30日にスタートしたプロジェクト「h220430」に関してのお話をコンセプト等含めて特徴や特に意識した部分をお伺いできますでしょうか?

Larsen C
Photo by Ikunori Yamamoto

ivy chair

BALLOON BENCH
h220430はそのとがった部分を意識して活動しています。今後も時代の流れを汲み取りながら、耐久性のあるデザインの創造に挑戦していくつもりです。耐久性のあるデザインとは、すぐに頭で理解や記憶ができるデザインではなく、情報が詰まった奥行きのあるデザインです。単純に美しくて使いやすいものも魅力的ですが、そこに奥深さを加える事ができればその魅力はさらに増すはずです。
また、ほとんどのデザイン的要素は既に過去に作り出されており、現代のデザインの多くはそれらを解体して新しい解釈を行ったり、昔のデザインを最新のテクノロジーで編集しなおすといった手法が定石となっていますが、その凝り固まった手法からの脱却が奥行きのあるデザインの追及にあるとも考えています。そのように今の時代性を持った次代のデザインに関わって行きたいと考えています。
日本は世界に誇るものづくりの国。他の国にはまねのできない優れた技術力や職人の力が存在している。
多くの海外メディアに取り上げられる事の多い、板坂さんですが日本のデザイン(市場)、海外のデザイン(市場)等どの様に意識されているのでしょうか?
デザインへの理解や関心は日本よりも海外の方が強いと感じています。例えば、ミラノサローネの会場では一般の人が本当にデザインを楽しんでいる光景を目にしますが、国内のデザインイベントでは残念ながらそのような光景をあまり目にしません。
日本では残念な事にコスト削減が第一で長期的な視点を持たず、売る事が優先された商業的なデザインが幅を利かせています。狭い視野でのその行動は環境への不可や、貴重な資源の浪費が伴う事は言うまでもありません。
また、人材の流出により産地の弱体化が起こり、伝承すべき技術を失い、なにものにも代え難い文化的な価値の損失を招きます。このような状況からの脱却が必要なのは明白です。デザインの意味もその存在すらも問われる時代に突入し、世界ではその流れが大きくシフトしはじめている中、日本ではそれが未だ見られません。商業的なことが必ずしも悪い訳ではないとは思いますが、デザインをもっと純粋に楽しむことができる土壌が日本にもあっていいのではないかと思っています。
もともと日本は世界に誇るものづくりの国です。他の国にはまねのできない優れた技術力や職人の力が存在しています。その力とデザイン力が合わさればきっと楽しいことができると考えています。
都市や環境をも見据えたプロデューサー的な存在が必要。
板坂さんのデザインには、例えば「視点を変化させること」「日本」「エコロジー」「デザインが成し得る可能性の追求」「素材へのこだわり」など様々なキーワードが見受けられます。板坂さんご自身の、仕事観やデザイン観はどの様に変化し今に至ったのでしょうか?

Edoma
Photo by Ikunori Yamamoto

Rubber Stool
Photo by Ikunori Yamamoto

Schwarzwald Stool
Photo by Ikunori Yamamoto
イームズのパワーオブテンのように公園で寝そべっていた自分から視野が広がり、行き着くところまで行って気がついたら自分に還元されていたということになれば中学生の頃の自分も満足するかもしれません。
建築が総合芸術であるならば、その建築を構成するパーツやそこに納まるプロダクト、さらにはそれを取り巻く都市や環境をも見据えたプロデューサー的な存在が必要ではないかと考えています。自分はまだまだ力不足ではありますが、そのような存在に近づく事を目標に前進していきたいと考えています。
建築家・プロダクトデザイナーという仕事において、板坂さんが一番大切にされている事や、座右の名等はありますか?
仕事に関わる全ての人をHAPPYにする事が理想であり、常に目標としている事です。クライアントや使い手の方々を感動させることは言うまでもなく必須ですが、それ以前に作り手の心を動かす事が大変重要です。
もの造りで重要なのはチームワークであるという事を建築で学びました。そのためにはクライアントにプレゼンする時と同等の力を投じて作り手にプレゼンします。作り手に理解していただくためにクライアントにも見せない模型やCGを用意することもあります。身近な人を感動させられなければ、誰も感動してくれませんからね。
また、お客様のオーダーに100%応えるという姿勢では足りないと思っています。その100%からいかに積み上げる事ができるか?が我々には求められるのだと思います。
また、板坂さんはどの様にデザインのアイデアを産み出されるのですか?その手法等、お伺いできる範囲で構わないのでお聞かせ下さい。
手法という程のものはありませんが、無意識に常にアンテナを張っていることが手法と言えるのかもしれません。もともとモノ造りが好きですから、意識しなくとも考えています。
そしてあらゆるものを積極的に見に行きます。デザイン的に気になるホテルができたという理由でスペインへ行ってみたり、先日もふらっと愛知県の豊田市美術館での展示を見に行きました。
また、左脳の論理力と、右脳の直観力や想像力のバランスを常に大切にしています。沢山のアイデアの中から、そのバランス感覚による選定を行うわけですが、それが一種のフィルターとなり作品に自分らしさを付加しているのだと思います。
国境や言語の壁を乗り越えて、社会の良き代弁者としてデザインに取り組み、メッセージを世界へ向けて発信していきたい。
これから、デザイナーとして板坂さんはどのような展開を描いていらっしゃるのか、宜しければ教えて下さい。
用と美を兼ね揃えた上で、メッセージ性を有したデザインは優れたコミュニケーションツールとなると考えています。それが身近に存在するプロダクトであれば、より深層心理に訴えることができるはずです。その点でアートやテキストよりもコンセプチャルなプロダクトデザインには社会に対する影響力があると感じています。
もちろんそれによる直接的な効果は大きいものではありませんが、それらの問題に対しては劇的な効果を求めるよりも、わずかな効果の積み重ねに期待するしかないのが現状です。この現状を踏まえ、社会が本当に必要としているものを模索し続けようと思います。
そして国境や言語の壁を乗り越えて、社会の良き代弁者としてデザインに取り組み、メッセージを世界へ向けて発信していきたいと考えています。今現在、このような思いに同調してくださった海外のメーカーと、ラバースツールの商品化を進めていますし、ドイツを拠点として欧州での展開も始まりました。
今は自分の声はまだ小さな声でしかありませんが、今後は一人でも多くの人に届くように努力していくつもりです。
コピーのきかない想像力やデザイナー自身の個性や才能を磨いてください。
最後に、これからクリエイティブ業界での活躍を目指す若い読者に向けてメッセージをお願い致します。
今はデザインに限らず、良いサービス等含めて何でもコピーされてしまう時代です。そうすると、どんどん低価格化の競争が激化するでしょう。その競争の中で、デザインの価値が削ぎ落とされ、文化的な価値も下げられてしまうのをとても残念に感じています。
この環境の中で生き残るために重要視されてくるのが、コピーのきかない想像力やデザイナー自身の個性や才能だと思います。是非、皆さんの個性や想像力を磨いて下さい。
今後は、建築やプロダクトに対する社会の評価軸を商業的な部分から本質的な部分へとシフトしていかなければならないと考えています。これは一人の力でできる事ではありません。
デザインの未来のために、日本の文化のためにこれからクリエイティブ業界で活躍される皆さんと力をあわせて共にメッセージを発信していく事ができれば幸いです。共にがんばりましょう!
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