
creatorinterview安積伸氏のクリエイティブ原点
~新作「NARA」シリーズ~
クォリティ・オブ・ライフを高めていく事が私のミッション。
LAST UP DATE 07/16, 2010
今回、北欧家具のリーディングカンパニーとして名高いフレデリシア ファニチャーとのコラボレーションで新作「NARA」シリーズを発表した気鋭のプロダクト・家具デザイナー安積伸氏。フレデリシアから作品を多く発表した家具デザイナー、ボーエ・モーエンセン氏(代表作J39/スパニッシュチェア)、ナナ・ディッツエル氏(代表作 トリニダードチェア)を敬愛する安積氏は「敷居の高いイメージのあったフレデリシアに、初めての日本人デザイナーとしてコラボレーションできた事は光栄」と語る。新作発表会にお伺いして敢行した安積氏のクリエイティブ原点に迫るインタビューを公開。


- 1965年神戸市に生まれる。京都市立芸術大学を卒業後、NECに勤務。1994年英国王立美術大学修士課程を修了し、2005年ロンドンに個人事務所a studioを設立するまでの10年間をデザインユニット“AZUMI”として活動する。その後、プロダクト、家具そしてスペースデザインと幅広い領域で 活躍する。国内外の賞を数多く受賞し、審査員としてもドイツ IF デザイン賞などに参加。代表作「LEM 」をはじめとする作品が、Victoria & Albert Museum(英)、Stedelijk Museum(蘭)などにパーマネントコレクションとして収蔵されている。大阪芸術大学客員教授。
a studio
www.astudio.biz
自分なりの方法で北欧デザインのスピリッツを表現したかった。
新作の「NARAシリーズ」に関してお聞かせください。
僕がデザインするのは、日用品としての家具です。今回のNARAシリーズに関しては、自分なりの方法で北欧デザインのスピリッツを表現したかったんです。歴史や思想を継承しながら、オリジナルなデザインを追究する事に意識を注ぎました。ギリギリまで余計なものをそぎ落としつつ、それでいて体にフィットする形に仕上げるという姿勢が本作の特徴的な部分だと思います。
「NARA」シリーズというシリーズ名の由来は?
「NARA」というシリーズ名は、実は仕上がったダイニングチェアがシカの角のように見えた事からシカ=奈良というつながりで名付けたんですよ(笑)。平城遷都1300年でもありますし(笑)。異国の人にも発音しやすいんです。

NARA Dining chair&table
今回の「NARA」シリーズの様に、機能性とデザインの限界点を探るようなデザインはどのように、産まれるのでしょうか?
観察と実験の繰り返しですね。体重がかかっているところはどこか?もたれると背骨の筋肉はどこにあたるのか?体全体の受け止め心地はどうか?など。体が感じる部分を徹底的に観察するんです。ヨーロッパのユーザーは座り心地に対する要求が非常にシビアなんです。だから、座り心地に特化すると必然的に背もたれは重要な要素になります。座り心地の良い構造を確保しながら、どのような造形美を引き出してゆくのか?と言うところからデザインが始まります。
産みの苦しみがあるからこそ、アイディアが実現した時の喜びが大きいんです。
安積さんが今回の「NARA」シリーズのみならず、デザインをされる時に常に意識されている事や哲学などをお聞かせ下さい。
僕のプロダクトデザイナーとしてのミッションはクォリティ・オブ・ライフを高めていく事だと思っています。人間の生活のクォリティを高めていくためにはどうしたら良いのか?という事にデザインの軸足を置くことを意識しています。家具は特に長く生活に密着するものですよね。だからテクノロジーやモノの持つ付加価値を肥大させるのでは無くて、人間の生活を根底で支えるモノだという認識があります。
たまにデザインする意味はなんだ?とか考えたりするけれど、僕は人が考えつかなかったこと気づかなかったことを発見したいという思いが強いかな。1歩でも、0.5歩でも前に進みたい。そんな気持ちが僕を動かしているのかも知れない。簡単にはデザインやアイディアなんて出てこないものなので、デザインする事は楽しくも苦しい作業なんです。ただ、産みの苦しみがあれば産みの喜びもある。アイディアが実現した時の喜びはとても大きいものです。

僕は才能があるとか無いとか、そんな話は全然信用していない。
既にミラノサローネをはじめとして、プロダクトデザイン業界の最前線でご活躍されている安積さんから、これからデザイン業界で活躍したいと考えている20代前後の若者に向けてアドバイスを頂けますか?
プロダクトデザイン、こと生活機器にまつわるデザインというのは結局のところ自分がどういう生活をしているのか?という部分が非常に大きく反映されるんです。
たとえばキッチンウェアをデザインするとして、もしそのデザイナーがキッチンに立たない人であれば、キッチンウェアのデザインを想像の中だけでする事になる。きっと、そこからは良いものは生まれないと思うんですね。僕は良くキッチンに立ちますが、日々の経験を通してキッチンウェアの存在意義や魅力を感覚的に理解しようとつとめています。
だから自分が生活していく中で、様々な環境において物事の必要性や意味を感じながら生活をする事がデザインをして行く上で大切なのだと思う。
クォリティ・オブ・ライフとは何か、若い内から意識してみて欲しいと思います。
もう少しフォーカスすると、実は自分の才能やセンスに悩んでいる若手デザイナー達は多く存在しています。安積さんも今に至るまでの間で壁に当たったり、悩まれたりされた時はどの様に乗り越えて来たのでしょうか?
僕は才能があるとか無いとか、そんな話は全然信用していないんですよ。今でも自分が才能豊かなデザイナーだとは思っていない。努力を継続しているだけの話なんです。学生時代はアイディアスケッチにしても、人が3枚書くところを10枚書いたりとかね。そんな風にしてやってきました。
でも、まず若い内はとにかく色々な方法を試してみて欲しい。
僕は今も他の分野のクリエイターの手記を読むのが好きです。好きな映画監督や音楽家、詩人、アーティストが、どういう問題意識を持ち、どういう事に悩んで、それをどうやって乗り越え、そしてどういう作品を生んだのか、それらを知ることは自分にとっても参考になると思っています。他の分野の方法論を自分なりに咀嚼してデザインで試してみたり。
またクリエイターの言葉や作品だけでなく、日常の生活の瑣末な事柄にさえ、クリエイティブな発想に対して何か有益な示唆は無いか?なんて思いながら、日々過ごしていますよ。
デザイナーとしてやらなければならない使命がある。
最後に、安積さんの今後予定されている展開や、新しくチャレンジしてみたいフィールド等はありますか?
社会のインフラを整えるタイプの仕事に関わって行きたいですね。家具には太古の昔からの歴史があり、既にご家庭用には良い家具はたくさん存在しています。しかし公共施設などは、今までデザインの手がかけられていない分、デザインが関わる事によって大きく変わる可能性を秘めている。たぶんお金にならないかもしれないけど、それはデザイナーとしてやらなければならない使命だと感じています。まさに、クォリティ・オブ・ライフという部分で欠けている部分に関わって行きたいですね。
■NARA Dining chair
無垢の木を使った彫刻的な造形美をもつ椅子。スリムな背もたれは、最小限の構造で上体を優しくホールド。背もたれの"角"はフックとして使用できる。
W495 D530 H835 SH435mm

四角を落とし、鋭角的な印象を和らげたテーブル。傾斜のついた脚は、テーブルに着きたくなるような親近感を与える。
W1800 D900 H720mm

樹木の様な構造を持ち、それぞれの枝が物をかけるためのフックとなっている。またこのコートスタンドは、家具の製作家庭で発生する木の端材を有効利用し生産されている。
W320 D420 H1800mm

■フレデリシア
FREDERICIA 1955年デンマークに設立された家具メー カー、 フレデリシア ( FREDERICIA )社。始まりは フレデリシア ( FREDERICIA ) 社が、経営に苦しむ椅子メーカーのフリデリシア・ストールファブリック社を買収、建て直しをしたことから現在につながる。その過程の中で、 ボー エ・モーエンセン の作品が売り上げを伸ばし、1年後に業績を黒字にし、当時の家具業界全体に大きな波紋を呼び起こした。 フレデリシア ( FREDERICIA ) 社の工場では一貫して最高のオーク材、牛革も最良のものが厳選して使用される。製品の機能性と美観の相乗効果のある家具を制作するという理念の下、 ボーエ・モーエンセン を始めとする多くのデザイナーとのコラボレーションで、世界的に有名な歴史に残る名作を数多く残している。
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